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主催事業情報 2022/9/9 【インタビュー】山根明季子 (作曲家) ー「C×C(シー・バイ・シー) 作曲家が作曲家を訪ねる旅 Vol.3 山根明季子×ジョン・ケージ[生誕110年、没後30年]」監修

©Ayano Sudo

 

「C×C (シー・バイ・シー) 作曲家が作曲家を訪ねる旅」Vol.3の監修を務める作曲家で、洗練された音響を生み出す山根明季子。

9月10日に迫る本番を前に、今回の企画で対峙するジョン・ケージの作品や、「カワイイ」をテーマにした自身の新作など、プログラムの聴きどころをうかがいました!


取材・文:小室敬幸 (音楽ライター)

 

 

――C×C(シー・バイ・シー)は、昨年から始まった「作曲家が作曲家を訪ねる旅」というコンセプトのシリーズですが、山根さんが訪ねるのは今年生誕110年と没後30年を迎えるジョン・ケージ(1912〜1992)ですね。

 

 

山根  ケージにはシンパシーを感じることが多いんです。私の作品と並べた時にどういうことにチャレンジ出来るのか、どんなことを提示できるのかを凄く考えながらプログラムを組みました。最初に《6つのメロディ》(1950)をもってきたのは、これがないといわゆるクラシック音楽の文化から離れている作品ばかりになってしまうなと思ったんです。

 

 

――事前に楽譜をみさせていただいたのですが今回、プログラミングされた《6つのメロディ》以外の5作品は、ケージ作品も山根さんの作品も、複数の楽器が縦のリズムをあわせるアンサンブルが要求されないものばかりなんですよね。

 

 

山根  でもそれでいて《6つのメロディ》は西洋音楽の伝統に通ずる協和音を使いながらも、機能和声とは異なる原理で作られているので、音そのものを聴き込んでいくと、書かれた時期が離れている《ザ・ビートルズ1962-1970》(1990)と《セブン》(1988)とケージの奥底では一貫している気がしていて。私の作品と絡めることでそういうものが見えてきたり、聴こえてくるといいなと思っています。

 

 

――この取材の前にはピアノの大瀧さん、エレクトロニクスの佐原さんと共に、《ザ・ビートルズ1962-1970》の事前収録しておくパートを録音されていました。

 

 

山根  録音でこの曲を聴いた時から、ただの編曲作品というカテゴリーに収まるものでは全くないと私は思っているんですけど、その価値が世間的には決して理解されていないじゃないですか? だからこそ今回取り上げることができて嬉しいんです。

 

 

――楽譜をみるとケージがビートルズ楽曲の既存楽譜を切り貼りして作ったのであろう6つのパート譜に分かれていて、それらがナンバー・ピースと同じタイム・ブラケットという手法を使って同時演奏(1パートだけ生演奏で、残りは多重録音)されます。抜粋された五線譜の上には、8分の演奏時間のあいだのどのタイミングで演奏するのかもおおよそ書いてあります。

 

 

山根  どう解釈すればよいのか分からないことがあったので(この曲を委嘱・初演したピアニストの)高橋アキさんに色々うかがっているのですが、今までの先入観が開放される発見がいっぱいあって面白いんですよ。例えば音部記号が見切れていたり、テンポが書いていなかったりと、楽譜としての必須の情報が欠けているのですが、アキさんから話を伺ううちにそうではなくて、何が大事で何がそうではないのか? その取捨選択が今までの概念と全く違うだけで、それが分かってから楽譜を見返すとどこにも矛盾がなくて、上手く出来ているんです。びっくりしました。

 

 

――この曲の後に初演される山根さんの《状態 No.3(State No. 3)》(2022)は言葉だけの指示(=テキストスコア)による作品で、楽譜上には「〔奏者が選んだ〕任意の既成楽曲を複数同時に演奏する」と指示されているので、ケージの《ザ・ビートルズ1962-1970》と重なりますね。

 

 

山根  ケージの他の作品のなかにも奏者が選んだ複数の楽曲や音響を重ねるケースはありますが、ケージの場合はまさに《ザ・ビートルズ1962-1970》のように時間で構成していたり、あるいは作曲家としてこういう風にして欲しいという恣意性のようなものはもうないじゃないですか。でも私が聴かせたいのは、リアルな空間にもネット上の空間にも人が作った音楽が溢れていて、それらが干渉している「状態」なんです。そこにフォーカスをあわせたかったので、自分で新作をつくることにしました。

 

 

――それって、山根さんが以前から「ゲームセンター」や「パチンコ店」を題材にして創作していることに繋がっていますよね。

 

 

山根  昔は西洋音楽も需要がたくさんあって曲が書かれてきたと思うんですけれど、現在では数え切れないほど溢れかえっていて……。 

 

 

――ちょっと踏み込んだ言い方をすれば「需要と供給」があっていないともいえそうです……。

 

 

山根  それこそベートーヴェンのような作品に基準が置かれてしまうと、自分が良いと思えることを追求して素晴らしい作品が書けたとしても、私だけでなく同時代を生きている人たちの作品が大事にされようがない状態にあるように感じていて。その中でどんどん作品を書いて自分を主張することに疑問や違和感があるんです。

 

 

――ベートーヴェンだけじゃなく、そこをバッハやブーレーズに置き換えても成り立ちますよね。ケージも今では現代音楽を象徴するような存在になっていますけど、伝記なんかを読んでも分かるように、箸にも棒にもかからない扱いをされる経験もたくさんしていました。

 

 

山根  まさに今回はケージを崇めるのではなく、実際に鳴っている音を“丁寧に”聴きたいと思っています。それにケージも《4分33秒》を初めて世に出す時に凄く躊躇したらしいんですね。そういう文章を読むと勇気づけられるというか、ほっこりします(笑)。

 

 

――伝記を読むと、ケージって人間臭いエピソード満載ですよね!そして休憩を挟んで後半は、2021年9月にデュッセルドルフで初演された山根さんの作品《キッチュマンダラかわいい》から始まります。

 

 

山根  みんなで一緒にアンサンブルする曲はたくさん既にあるので、最近はそうじゃない時間軸を作るために色んな方法で時間を構成していく方法を日々考えているんです。これは一応スコアで緩く書かれているんですが、それぞれが自分のパートに集中するという方法を試みました。

 

 

――後半2曲目には、ケージの晩年を象徴する「ナンバー・ピース」シリーズから《セブン》が置かれています。

 

 

山根  さっきもケージにシンパシーを感じると言いましたが、それは私自身が一音を聴き込んだり、ありのままの状態を聴き込んだりすることが好きだからなのだと思います。《セブン》も7人の奏者がそれぞれ出す音に、ある程度の長さ(20分)があるからこそじっくり向き合える作品として選びました。

 

 

――後半3曲目にしてコンサート全体のトリにもあたるのが、これまた新作初演となる《カワイイ^_-☆d》です。もともとは“「かわいい」と主観的に感じる音を出す。自分の楽器は勿論、それ以外に何を使用しても良い。”という指示のテキストスコアだけで作られた2019年の《カワイイ^_-☆》という作品がはじまりですが、《カワイイ^_-☆a》《カワイイ^_-☆b》《カワイイ^_-☆c》……といったように、山根さん自身が特定の楽器編成のためにパート譜を作曲しているバージョンも発表されています。なので今回の新作《カワイイ^_-☆d》は、その第4弾ということですね。

 

 

山根  言葉だけでも、楽譜だけでも到達できない音楽を、あの手この手で試みている感じですね。スコア(総譜)上にいくらカワイイ音を書いていっても、実際に演奏されると複数のパートがバチッと合うと「格好良く」聴こえてしまったりするんです。でも(タイムブラケットを駆使した)ケージの作品も整然としていて、カワイイ音は出てこないように思います。

 

 

――そこに山根さん独自の世界があるわけですよね。「カワイイ」に何故、山根さんがこだわっているのかは、山根さんのWEBサイトに掲載された《カワイイ^_-☆》の作品ページ(https://akikoyamane.com/post/632917467896905728/kawaii)に詳しく記されていますが、改めて聴かせていただけますか?

 

 

山根  端的にいえば「居場所がない」と感じているんです。さっきのベートーヴェンの話や、アンサンブルで格好良く聴こえてしまう話とも繋がっていて、完成された「崇高さ」や「立派さ」だけに価値があるのではなく、そうではない表現にも魅力や価値があることを西洋クラシック音楽の世界でも共有できるようになってほしいなと思いながら、試行錯誤を繰り返しています。

 

 

――そうした思いが込められた山根さんの作品と一緒に聴くことで、またケージ作品の聴こえ方も変わりそうです。とても刺激的なコンサートになりそうですね!

 

 

 


●公演概要

C×C(シー・バイ・シー) 作曲家が作曲家を訪ねる旅 Vol.3山根明季子×ジョン・ケージ[生誕110年、没後30年]

 

2022年9月10日(土)15:00開演 小ホール

 

プログラム

ジョン・ケージ:ヴァイオリンとピアノのための「6つのメロディ」

ジョン・ケージ:ザ・ビートルズ1962-1970

山根明季子:状態 No.3(新作初演) 

山根明季子:キッチュマンダラかわいい

ジョン・ケージ:セブン

山根明季子:カワイイ^_-☆d(神奈川県民ホール委嘱作品・初演)

 

出演

成田達輝(ヴァイオリン)

NARITA, Tatsuki, Violin

東条慧(ヴィオラ)

TOJO Kei, Viola

山澤慧(チェロ)

YAMAZAWA Kei, Cello

丁仁愛(フルート)

JEONG Inae, Flute

田中香織(クラリネット)

TANAKA Kaori, Clarinet

相川瞳(打楽器)

AIKAWA Hitomi, Percussion

大瀧拓哉(ピアノ)

OTAKI Takuya, Piano

佐原洸(エレクトロニクス)

SAHARA Ko, Electronics

 

チケット料金

全席指定 一般¥4,000 学生(24歳以下・枚数限定)¥2,000 

 

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