シリーズ「基本を学びなおす」第3回目は、危機管理対応マニュアルの見直しです。
講師は招かず参加者全員の知識と経験を注ぎ込んで、より実践的なマニュアル作りに挑みました。
会場は県民ホールと同じ70年代建築の雰囲気に満ちた厚木市文化会館です。
公立文化施設を運営する上で関わってくる法令は多々あります。
施設の設置条例に始まり、建築基準法、興行場法、消防法といった大きなものから、
運営面に於ける安全配慮義務や善管注意義務、ロビーでは迷惑行為防止条例や時には青少年保護育成条例、
そして物販に食品が含まれているなら食品衛生法といった具合に、数え始めるとキリがありません。
その中で常に緊張感を持って意識しているものと言えば、
それは防災と災害発生時の対応に関わる法令の数々です。
話は少し変わりここ数年の日本では、かつてない規模の自然災害が、かつてない頻度で発生しています。
国土交通省は現在の自然災害発生状況を「新たなステージ」に入ったと定義し、
従来の災害対策では十分ではないとの見解を示しています。
そこには台風やゲリラ豪雨などの水害対策、地震や津波、火山噴火などの対策も含まれています。
とりわけ近い将来における大型地震の発生確率はとても高く、
大勢の人が集まる文化施設にとってその対応は喫緊の課題となっています。
消防法第8条の定めにより、多くの文化施設は所轄の消防署に提出した消防計画に基づき、
火災や地震の対応にあたります。
しかし、圧倒的な破壊力の災害が発生したり、避難誘導にあたるスタッフ数名が負傷したら、
計画通りに運ばない可能性があります。
そこで今回の講座では、スタッフ数名の負傷により人手が足りなくなったと想定し、
その時のためのプランB、つまり次善策を話し合いました。
平日夜の貸し館公演中に地震が発生し、会場スタッフ数名が負傷。
その状況で観客全員を避難させるまでに行うべきことを、時系列で挙げてゆきます。
各施設の会場利用担当者が集まっているので、誰の意見にも説得力があり、順調に進みます。
足りない人手は、主催者(会場利用者)との連携、つまり共助で補うこととします。
ではどのように共助の関係を築くのか。ここで議論が行き詰りました。
消防計画に含まれていない第三者による避難誘導で怪我人が出た際、免責とする法的な保障はありません。
従って第三者に協力を求めるには限界があるという事実が、大きく立ちはだかります。
また、主催者はなるべく公演を中止にしたくないので、施設側の強い要請で中止となると、
その先に賠償責任問題が待っています。
もし仮に裁判となった場合、施設側の有する施設管理権、課せられた安全配慮義務、善管注意義務等を勘案しても、
民法の被害者保護(この場合、中止させられた主催者の保護)が優先される可能性が高いのです。
県内15施設、27人の現場担当者が2時間議論を交わしても、ここから先へは進めませんでした。
大型地震も火山の噴火も明日起きる可能性があると国交省が警告している現在、
法整備を待っている時間はありません。プランBは完成しませんでしたが、共助の相手の理解を得ること、
そして双方で事前の取り決めを交わすことに、今後の対策の可能性を感じたまま講座は終了となりました。
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- 劇場運営マネージメント講座 シリーズ「基本を学びなおす」 第3回 実現可能な危機管理対応マニュアルを作る
育成 2
(C)神奈川県民ホール
劇場運営マネージメント講座
シリーズ「基本を学びなおす」
第3回 実現可能な危機管理対応マニュアルを作る
- 2017年9月4日(月) 実施
- 厚木市文化会館 第304号会議室