フォントはデザインと機能が融合した製品です。読みにくいけどデザインが印象的なもの。特徴のないデザインだけど読みやすいもの。それぞれに特性と目的を持って開発されています。UD(ユニバーサルデザイン)フォントの場合は、「より多くの人にとって見やすく読みやすいデザイン」がそれにあたります。
日本語フォント開発の歴史の中で、UDの2文字を冠した製品が初めて登場したのは2006年でした。リモコンの小さな文字が読みにくいという高齢者の意見を受け、家電メーカーの担当者がフォント制作会社を訪ねたのが、誕生のきっかけです。これを機に各社による研究開発が始まり、約20年が経過した現在、UDフォントはバリエーションも目的も広がりました。もはや高齢者だけに向けたフォントに留まってはいません。読字が困難な要因を問わず、「より多くの人」にとって読みやすい製品が登場し始めています。
今回の講座では、進化を続けるUDフォントについて学びました。
講師をお願いしたのは日本を代表するフォント制作会社、株式会社モリサワの高田裕美さんです。同社が発売している「UDデジタル教科書体」の開発者であり、昨年出版されマスコミでも取り上げられた書籍『奇跡のフォント 教科書が読めない子供を知って UDデジタル教科書体 開発物語』(時事通信社刊)の著者でもあります。
講座はグループワークを含めて約2時間行われました。UDフォントの始まりから、著書にもあるロービジョンやディスレクシアの子供達との出会い、当事者や研究者と繰り返した検証の数々、リリースに至るまでの過程がスライドと共に語られます。その中で私たち文化施設の関心を引いたのは、UDフォントの汎用性です。
講師の開発したUDデジタル教科書体は、ロービジョンやディスレクシアなど読みに困難さを抱える人だけではなく、日本語を母語としない人にも読みやすいことが、当事者との検証で明らかになっています。留学生の読みやすさや好み、手書き文字との一致認識で、UDデジタル教科書体の評価が最も高いという結果になりました。やさしい日本語と組み合わせると、情報保障のツールとしても有効です。もちろん、読むことに困難がない人にも、ストレスなく読めるデザインになっています。
高齢者向けのバリアフリー的な視点から始まった日本語UDフォントは、年月と共に字義通りユニバーサルデザインへと収斂しています。読字に困難のある人が文字を諦め、少しずつ社会から孤立してゆくのを防ぐために、UDフォントは人と社会をつなぐ鍵になるのではないか。そんな予感がする講座でした。
*UDデジタル教科書体はWindows OSに標準搭載されています。ワードやエクセルでも使えるので、館内に掲出する案内や利用者へ渡す案内で試してみてください。